6)
「ジジイ」
「あァ?」
「いつか、何年か……何十年か先。アンタが死んでも、絶対に義足だけは棺に入れてやらねェ。」

怪訝な顔のゼフにサンジは続ける。

「アンタがおれの知らない所へ勝手に行っちまわないように、さ。
おれが義足持って、後から追ッ駆けるから、その時まで、どこにも行けないように。」

白いバスタブに少し窮屈そうに納まったゼフの身体。
それは少しだけ棺に納まる様を……そして昼間の葬儀を連想させる。
ギャルソンと同じように、眠ってるようにしか見えないだろう姿の前で、それでも冷たく固い死人の手を、今度はちゃんと取れるのだろうか。
俯く料理人たちの中で、自分は呆然と立ち尽くすのだろうか?感情を必死に堪えているのだろうか?


それとも



義足を抱えて




主を失った船と一緒に








ザバッ


ぽたぽたと滴の落ちる前髪越しに、ゼフが鼻先で笑っているのが見えた。

「幽霊ってのァ、もともと足がねェって相場が決まってンだよ。」
ふくれっ面のサンジを手招いた。
「アンタに言ったって、どうせまた笑うに決まってるけどさ。」
ゼフの二の腕に顎を乗せ、サンジは口を尖らせる。

「不安なんだよ。ジジイが遠くの…昔のことを目で追ってるときって、おれの知らない顔してるから……アンタの中でおれが存在してない時の顔だから……なんか、すげェ…………遠い」
「こんな近くにいるじゃねェか。」
「近くにいるから、アンタの目におれが写ってないことわかっちまうだろ。それが嫌なんだよ。」
「……………………。」
「しょうがねェんだけどさ。アンタはおれの二倍以上生きてるわけだし。だけど、」
「だけど?」
「最期の瞬間くらいは、おれだけを写してろよ。」

答えの代わりにゼフはサンジの口唇を塞いだ。
サンジはゼフの後頭部に腕を回して、強く引き寄せる。

他には何も見えないように。