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「ジジイ」 「あァ?」 「いつか、何年か……何十年か先。アンタが死んでも、絶対に義足だけは棺に入れてやらねェ。」 怪訝な顔のゼフにサンジは続ける。 「アンタがおれの知らない所へ勝手に行っちまわないように、さ。 おれが義足持って、後から追ッ駆けるから、その時まで、どこにも行けないように。」 白いバスタブに少し窮屈そうに納まったゼフの身体。 それは少しだけ棺に納まる様を……そして昼間の葬儀を連想させる。 ギャルソンと同じように、眠ってるようにしか見えないだろう姿の前で、それでも冷たく固い死人の手を、今度はちゃんと取れるのだろうか。 俯く料理人たちの中で、自分は呆然と立ち尽くすのだろうか?感情を必死に堪えているのだろうか? それとも 義足を抱えて 主を失った船と一緒に 沈 ザバッ ぽたぽたと滴の落ちる前髪越しに、ゼフが鼻先で笑っているのが見えた。 「幽霊ってのァ、もともと足がねェって相場が決まってンだよ。」 ふくれっ面のサンジを手招いた。 「アンタに言ったって、どうせまた笑うに決まってるけどさ。」 ゼフの二の腕に顎を乗せ、サンジは口を尖らせる。 「不安なんだよ。ジジイが遠くの…昔のことを目で追ってるときって、おれの知らない顔してるから……アンタの中でおれが存在してない時の顔だから……なんか、すげェ…………遠い」 「こんな近くにいるじゃねェか。」 「近くにいるから、アンタの目におれが写ってないことわかっちまうだろ。それが嫌なんだよ。」 「……………………。」 「しょうがねェんだけどさ。アンタはおれの二倍以上生きてるわけだし。だけど、」 「だけど?」 「最期の瞬間くらいは、おれだけを写してろよ。」 答えの代わりにゼフはサンジの口唇を塞いだ。 サンジはゼフの後頭部に腕を回して、強く引き寄せる。 他には何も見えないように。 |