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立派なのはドアに貼られた“207”の金文字ばかりで、肝心の客室は、自室より小さく殺風景な部屋だった。 「モーテルのがよかったんじゃねェの?」 ぼそっとこぼしたサンジは、たいして広くもないバスルームに蹴りやられた。 バン、と扉を叩き付けられた後は、ひたすら静寂が続く。 この建物に自分たちの他は誰もいないんじゃないかと思えるくらいに。 居心地の悪さを感じて、サンジは数センチほどドアを開けた。 ベッドのきしみ。 窮屈なジャケットを脱ぎ捨てる気配。 僅かに向こうが明るくなった。サイドランプだけを灯したのだろう。 長い溜息が聴こえる。 疲労の色が濃い。やはり、雨が足に負担をかけていたようだ。 サンジは大きくドアを開けた。 「なぁ、やっぱアンタ先入れよ。足痛むンだろーがよ」 「余計なこと気にしねェで、さっさと入っちまえ。酔っ払いが。」 「酔ってねェよ!…いいから。どうせ寝酒すらココにねェんだろ?」 「……………………。」 「あっためて、よくほぐせば痛みは取れンだから。慢性化したら仕事に差し支えちまうぜ?」 「……………………………………。」 しぶしぶゼフは重い腰を上げた。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 「…………だからって何で、てめェまで入ってくるんだ。」 「部屋は寒いんだよ。」 「だから先に入ってりゃよかったンじゃねぇのか?」 「うるせェな。…………いいじゃねェかよ。マッサージしてやってンだからよ。」 バスタブに二人は狭い。 しぶしぶサンジは、腕だけを湯に入れてゼフの右脚を揉みほぐしている。 ゼフはバスタブの縁に頭を乗せて、聞こえよがしに溜息を落とした。 「俺には一人になる時間もねェのか?」 「おれを独りにさせるんじゃねェよ。」 聞こえない程度に呟いたつもりが、狭い風呂場が災いして、しっかりとゼフの耳にも届いてしまった。 苦りきった顔から目を逸らし、サンジはマッサージに専念しているフリをする。 「情緒不安定なガキか。てめェは。」 「ガキだよ。」 太腿を包みきれない手が止まる。「…………ガキでいいよ。」 「アンタがずっといてくれンなら、なんでもいい。」 「阿呆か。」ケッとゼフは一蹴した。 「俺のが先に死んじまうのは目に見えてるだろうが。」 「…………ッ」 引き攣った、間。 「し………ってる。そんなこと」 「…………………………」 「残り時間が少ねェことなんて解ってる。」 「…………………………………」 「だから一秒だって傍にいたいんじゃねェか。」 「……………………………………………」 ゼフがより深く浴槽に身体を沈める。 サンジがほぐす手の動きを再開する。 睫毛が濡れているのを誤魔化すように。 何事もなかったかのような………………静けさ。 |