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埋葬の後に店へと移動して、軽い食事会になった。 さすがにあのギャルソンが戻る気になった店だけあって、料理の方はなかなかの味だった。 ここの厨房のシェフはあの女だと聞いて、少なからずサンジは驚いた。 「これを……貴女が?」 「そうよ。」女はふっとやわらかい笑みを浮かべて言った。 「今日お出ししたのは、みんなあの人との思い出の料理ばかり。」 「このオマール海老のムースがいいですね。ソースが絶妙で……レシピを伺いたいくらいです。」 「それだけはダメ。ウチのスペシャリテだから。」 意味ありげに笑った。 彼女の目に、スペシャリテを恭しく運ぶギャルソンの姿が映った ような気がした。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 店を出たのは、すっかり足下が暗くなってからだった。 雨は幾分激しくなってきていた。 本当ならもっと早くに座を辞する予定だったが、そうし難い空気に流されて、ゼフもサンジもずるずると落ち着いてしまったのだ。 額の後退したディレクトールが、「よろしかったら、泊まっていきませんか?」と申し出てくれたが、さすがにそれは辞退して、港近くの宿までの馬車だけ呼んでもらった。 「てめェな……明日は休みじゃねェんだぞ。」 二人きりになり、ゼフが横目で睨んだ。 傍らのサンジはすっかり酔いが回っていた。 ソムリエにあれこれ勧められるまま飲んだワインが今ごろになって効いてしまい、くたりとゼフの肩にもたれている。不定形な言語で返事をしてサンジは目を閉じた。 「起きろ。」 「眠っちゃいねェよ。」 それでも単調な車輪の振動は眠気を誘うので、サンジは目を閉じたまま口を開いた。 「ジジイ、こっちに来るときに『よかった』って、何がよかったんだよ?」 「くだらねェことばかり聞いてやがるな、てめェは」 ゼフの舌打ちが聞こえた。そして、「『運がよかった』って言ったんだよ。」 「葬式と航路が近い時期がぶつかったからか?」 「まァな。一番遠い時期だったら行けなかっただろ。……それに」 沈黙。 「あの男も運がよかった。帰るべき場所に帰って、仲間に看取られて死ねたんだからな。」 サンジは身を起こしてゼフの顔を見た。 ゼフは黒い街並を、否、街並の遥か遠くにあるものを見つめていた。 「ジジイ………」 その時、馬車が激しい軋みを上げて、─────────止まった。 |