3)
葬儀は簡素なものだった。
参列客も数えるほどしかいない。
親族だと思っていた集団はギャルソンの店の従業員で、喪主をつとめたのはその店のパトロンの、背のひょろ高い若い男だった。

男はカンペを見ずに、とつとつと語りかけるように喪主挨拶をし、一礼して下がった。そのまま顔を上げなかった。
泣いてはいない。
ただ、呆然と虚ろな表情で床に目を落としていた。

彼の隣には、寄り添うように女が立っていた。
彼とは対照的にキッと正面を睨んでいた。
真一文字に結ばれた形のいい口唇は、堪えているようにも、憤っているようにも見えた。

不思議な二人だった。

遠目に見て、女の方は男の妻かなにかかと思ったが、どうも違うようだ。
だが、雇い主と従業員というだけの間柄にしては少し微妙な感じがした。
サンジは、吸い寄せられるようにその二人を目で追っていた。

「サンジ」

ゼフに小さく脇腹を小突かれた。
献花の順番がすぐそこまで来ていた。



サンジには、こういった葬儀に参列した記憶があまりない。
バラティエで死者が出ても、遺族が引き取りにくるか、身寄りのない者は、花や酒それにオーナーゼフ手ずからの弁当とともに袋に入れられて水葬に付される。
経も上げず、賛美歌も歌わず、オーナーの短い言葉と仲間の黙祷に送られ、彼らは海へと還されるのが習慣だ。

とまどいつつサンジはゼフに続いた。
ゼフとて海の人間で、あまり陸でのこういった作法に明るくはないはずなのだが、落ち着いた振る舞いで、それとは感じさせずに献花を終えた。
ゼフに目で促されて、白い花を手に棺に歩み寄る。


十年ぶりにギャルソンの顔を見た。


目元には記憶よりも深い皺が刻まれていた。
白いものが混じる髪。
まぎれもなく、幼いころに可愛がってくれたあの男だった。
ただ眠っているかのような穏やかな表情で、糊のきいたギャルソンの制服を纏って横たわっている。
それが逆に強くサンジに死を意識させた。

懐かしさをこめて、組み合わされた手に…………サンジの頭を撫でた手に、触れようと指先を伸ばした。


しかし───────────────────できなかった。


それをさせない何かがそこにあった。
形の見えない、虚ろな、冷たい………………何かが。



棺から離れた時、あの男女が献花を済ませた参列客へ頭を下げるのに目があった。
そこで初めてサンジは、二人の距離に納得がいった。

取り残された息子と、置いてかれた女なのだ。あれは。



遣りきれない思いに駆られて、目を伏せたまま足早に席に戻った。