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葬儀は簡素なものだった。 参列客も数えるほどしかいない。 親族だと思っていた集団はギャルソンの店の従業員で、喪主をつとめたのはその店のパトロンの、背のひょろ高い若い男だった。 男はカンペを見ずに、とつとつと語りかけるように喪主挨拶をし、一礼して下がった。そのまま顔を上げなかった。 泣いてはいない。 ただ、呆然と虚ろな表情で床に目を落としていた。 彼の隣には、寄り添うように女が立っていた。 彼とは対照的にキッと正面を睨んでいた。 真一文字に結ばれた形のいい口唇は、堪えているようにも、憤っているようにも見えた。 不思議な二人だった。 遠目に見て、女の方は男の妻かなにかかと思ったが、どうも違うようだ。 だが、雇い主と従業員というだけの間柄にしては少し微妙な感じがした。 サンジは、吸い寄せられるようにその二人を目で追っていた。 「サンジ」 ゼフに小さく脇腹を小突かれた。 献花の順番がすぐそこまで来ていた。 サンジには、こういった葬儀に参列した記憶があまりない。 バラティエで死者が出ても、遺族が引き取りにくるか、身寄りのない者は、花や酒それにオーナーゼフ手ずからの弁当とともに袋に入れられて水葬に付される。 経も上げず、賛美歌も歌わず、オーナーの短い言葉と仲間の黙祷に送られ、彼らは海へと還されるのが習慣だ。 とまどいつつサンジはゼフに続いた。 ゼフとて海の人間で、あまり陸でのこういった作法に明るくはないはずなのだが、落ち着いた振る舞いで、それとは感じさせずに献花を終えた。 ゼフに目で促されて、白い花を手に棺に歩み寄る。 十年ぶりにギャルソンの顔を見た。 目元には記憶よりも深い皺が刻まれていた。 白いものが混じる髪。 まぎれもなく、幼いころに可愛がってくれたあの男だった。 ただ眠っているかのような穏やかな表情で、糊のきいたギャルソンの制服を纏って横たわっている。 それが逆に強くサンジに死を意識させた。 懐かしさをこめて、組み合わされた手に…………サンジの頭を撫でた手に、触れようと指先を伸ばした。 しかし───────────────────できなかった。 それをさせない何かがそこにあった。 形の見えない、虚ろな、冷たい………………何かが。 棺から離れた時、あの男女が献花を済ませた参列客へ頭を下げるのに目があった。 そこで初めてサンジは、二人の距離に納得がいった。 取り残された息子と、置いてかれた女なのだ。あれは。 遣りきれない思いに駆られて、目を伏せたまま足早に席に戻った。 |