7)
露出した肩に寒さを感じてサンジは目が覚めた。
部屋は未だ闇の中。
布団が少し捲れ上がっている。ゼフが身体を起こしているようだ。
首を捻ると、ベッドの上にぽつりと浮かんだ小さなオレンジの点が見えた。

「煙草………………」
「ああ、一本貰った。」
「吸えたのかよ?」
「…………まァな。」

言葉と共に煙が吐き出される。
琥珀と黒に塗り分けられたその横顔に、サンジはしばし見蕩れた。

「もう少し寝てろ。」
「ん…………」

ゼフの方へ寝返ると、すぐ目の前に太い血管の浮いた手首があった。
何とはなしにすり寄る。
いつもなら疎ましがって退けられてしまうが、その手は頬と頭を撫でて、サンジの手の上に重ねられた。
覆い被さった手を握ってみる。
するとその手がサンジの指に深く指を絡めた。


嬉しいような、
懐かしいような、
気恥ずかしいような、

…………泣きたいような。

何かを言いたいのに、
いつもいつも口にするような焼き増しされた甘い台詞も、
気のきいた言葉も、
ましてや一番伝えたいことも、
何ひとつ浮かべることができずに、サンジは黙って枕に顔を埋めた。

ぴったりと重ねた手から、とろとろと眠りに誘われる。

意識を手放す直前、ゼフが何か言った気がしたが、気にせずに眠ることにした。


ちゃんと、ゼフの目が自分を写していると感じられるから…………。


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てめェが今の俺くらいになる頃には、
俺がてめェの隣に居られることはまず無ェだろう。

それはどうしようもねェことだ。

けどな、残された俺の時間は全部てめェのモンだ。

ンな泣きベソかかねェでもくれてやるさ。

“赫足”をくれてやったようにな。


ああ、そうだ。

アレはてめェが俺から奪ったンじゃねェ。
俺がてめェにやっただけのことだ。ただそれだけだ。


だからくだらねェコトにおびえてンじゃねェよ。

てめェがいて、バラティエがあって、
それで何処に行くってンだ?えェ?


この瞼が閉じねェ限り、離れたりしねェよ。




死が

ふたりを

分かつまで。




end.