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「どうした?人の顔なんかじっと見て。」

 青年がまじまじと自分を見つめているのに気付き、赤髪の男は怪訝な顔をした。

「さては、俺に惚れてるな?」
「…………………………馬鹿?」

 青年の心底嫌ァな顔にも、男は全くめげない。
 こんな反応をどこかで見たことがあったな……と思い返し、麦わらの少年の顔が頭をよぎった瞬間、青年は小さくため息をついた。

「そっかァ。ため息つくほどイイ男かあ」
「………………。」
 いっそ裏口に捨ててきたい衝動に駆られたが、一応は客なので黙殺にとどめておく。

「どうしてこンなのが、頭なんて張ってて、アンタみたいな有能な男を側に置いてて、おまけにジジイと仲がいいわけ?」
 赤髪の連れの黒髪の男にそう言うと、彼はげらげらと笑った。

「まったくだ。なんでこんなお頭についてるのか、俺も時々わからん。」
「おれはずっとわかんねェよ。……なァ、なんだってアンタが頭やんないのさ?アンタのがアタマ良さそうだし、なんつーの?威厳…みたいのあるじゃん?コレのどこがイイんだよ?」
「コレ、ねぇ………………。」

 “コレ”呼ばわりされた赤髪の男は、日なたぼっこの猫のような顔で黒髪の男の肩にもたれかかっていた。今にもゴロゴロと咽を鳴らしそうだ。
 陳腐な言い方だが……と、氷を入れたテネシーで喉を軽く湿らせ、男は肩に流れる赤い髪をさくりと撫でた。

「運命って奴だな。初めて見た瞬間にわかっちまったんだよ。コイツは俺の上に立つ人間だって。コイツには地獄の底までついてくことになる、ってな。あンときは互いに未だ、十代のケツの青いガキだったからな。威厳もなにもねェだろ?………………それでも、俺は決めたんだ。コイツについてく道をな。」男はにやりと笑った。
「ノロケてんじゃねェよ。」青年がフンと鼻を鳴らす。

「どうだッ、これで俺が偉大なお頭サマだとわかったか!!」
 赤髪の男が、得意げに笑った、その時。

「おいベックマン、てめェ、それだけが理由じゃねェだろう?」
 今まで黙っていた店主が言った。
「?どういうイミだよ」三人が一斉にそちらを見る。
「世間じゃよく言うだろう?『馬鹿な子ほど可愛い』ってな。」

 吹き出す青年と、憮然とした赤髪の男。
「……言われてみれば、そうだな。」黒髪の男は一人納得する。
「あァッ!ベン、てめェ!!!」
「ホントのことじゃねェかよ」

 笑う青年の背中に店主の声が飛んだ。
「ウチにも馬鹿が一匹いるからな。」