8:00.am-18:00.pm



「機嫌悪いなーサンジ」
 ピラフを頬張りながら、麦わらをかぶった少年が言った。
 青年は少年を見ようともしない。新聞を広げ、ひたすら煙草をふかしている。
 傍らの灰皿はすでに山になっており、いまにも崩れてしまいそうだった。その吸い殻のどれもが中途半端に長い。
「おっさんがいないからだろ」
 ぴくりと紙面をめくる手が止まった。「馬鹿のくせに勘だけはイイ…………。」

 確かに。
 青年の機嫌の悪い原因は、朝起きたら店主がいなかった事だった。
 買い出しだとは分かっている。別に二人で行くほどの量でもないので、自分を起こさなかったのだとも。
 それでも、幼いころから人に囲まれて育った青年にとって、誰もいない家でぽつんと目を覚まし、一人きりで朝食を食べるのはどうにも慣れないことだったし、せめて出かける前に一言でも声をかけて欲しかったというのもある。加えて、そろそろ帰ってきても良いはずの時間なのに未だその気配がないのだ。

「何か言ったか?」
「るせェな。それ食ったらとっとと帰れ。」

 青年は灰皿の縁でむりやり火を潰しながら横目で少年を睨んだが、またすぐに新聞に目を落とした。
 にべもない態度に、少年は全くひるむ様子を見せない。
 この程度で引き下がるくらいなら、毎度開店前に押し掛けるようなことはしないだろう。

「なぁなぁ」

 ふいに新聞が取り上げられた。
「てめェ…!」取りかえそうとした瞬間、その口にピラフをすくったスプーンが押し込まれた。
 目を白黒させながら、ようやくそれを飲み込んで、青年は怒鳴った。

「なにしやがるクソゴムッッ!!」
「美味いだろ?」
 少年は満面に笑みを浮かべて、言った。
「美味いもの食ってるときくらい、そんな顔すんな。」

 ほんの一瞬、店主とダブって。

 青年は思わずうなづいてしまった。
(かなわねェな………)
 深々と煙草の煙を吸い込む。

 少年の背中越しに見える四角い空が、やけに明るかった。