+ タルトフレーズ +


傍らの笊に上がっている苺を一つ摘んで、サンジが顔を顰める。

「酸っぱい。」
「ひと袋500ベリー。」
「ジャム用?」
「…のつもりだったがな」

気が変わった、と言いながらゼフは泡立てたクリームをひと嘗めし、トレーに整列した手のひらサイズのタルトを引き寄せた。

「イチゴタルト?」
「タルトフレーズ。」

同じじゃねェかよ……と思ったが、敢えて言わずにおく。
厳つく大雑把そうな外見とは裏腹に、料理のネーミングやデコレーションに対して、変なところでこだわるのだ、この男は。

ゼフは黙々と形よくカスタードが鎮座したタルト生地の上に、ホイップクリームを搾り出してゆく。
スライスした苺を、大きめのは下に、小さめのは上に乗せて、しばし首を捻っていたが、思い出したように冷蔵庫から、ラズベリーソースの敏を持ってくると、小さじひと掬いだけ頂上に垂らした。
その上にミントの葉を置いて、満足げに笑った。

「可愛いもんだろう?」

サンジはゼフが勧めるのを待たずに、それを摘んで齧った。
サクリとしたタルトの食感とカスタード&ホイップクリームの甘さは想像通りだ。
だが、ラズベリーソースと、先ほどサンジが顔を顰めた小さく酸味の強い苺が、後味をさっぱりさせてくれていて、愛らしい、ただの甘ったるいだけの菓子にはないアクセントをつけていた。

「どうだ?」
「見た目をイイ意味で裏切る意外性があるって、おれは好きだよ。」

 自分に注がれた視線に気付き、ゼフが微妙な表情を浮かべる。
 サンジは「美味いよ。コレ。」と微笑んだ。



よく見ると、苺の上にラズベリーソースが。
そのソースの酸味が苺とクリームの甘さを引き立てている。
苺の下にはカスタード。タルトの中身はスイートポテトか。
洋酒の風味が効いている。

Dolce MariRisa (Ueno)