What did he present?

3月2日がおれの誕生日なんだ、
とバタバタと俺の部屋に駆け込んできたチビナスが言った。

「そりゃめでてぇな」と答えると
「ジジイはいつ?」と尋かれた。

「忘れちまったよそんなもん」
そう返した俺の傍らにちょこんと腰掛けたチビナスは、何がおかしいのかころころと笑って

「じゃあ2日におれがジジイに何かしてやるよ」
「あべこべじゃねぇかよ。てめェがもらう側だろうが。」
「ジジイ、プレゼントくれるの?」
「欲しいもんがあるのか?」

しばらく難しい顏をしていたチビナスだが、恐る恐る口を開いて

「じゃあさ、街でいっしょに見てくれる?」

俺と?めんどくせエこと抜かしやがるな……

「買い出しの奴と選んで来い。後で立て替えてやるから。」
「そうじゃなくて!!!」

不意の大声に俺は読んでいた本から目を離した。
丸い目をいっぱいに見開いて、怒ってるとも泣いてるともつかない顏で睨むチビナス。
何かまずいことでも言ったか?俺は…………


その時、ノックの音がした。応じると一人のギャルソンが顏を覗かせた。
俺と年代が近く、チビナスじゃできねェ事務仕事もこなしてくれる。

「オーナー、来月の店休日はいつにしますか?」

まだまだコックの人数が足りてないバラティエだ。
本当なら年末年始以外は無休にしたいところだが、シフト制にできる状況じゃない。
仕方なく、客足の具合を見ながら月に2、3くらい休みを決めて月始めに知らせている。

「ああ、もう月末か?」
「2月だから早いんですよ」
「そうだったな……」

カレンダーに目をやる。視界の端っこにチビナスのふくれっ面がよぎった。

「…とりあえず、2日。」

ぎょっとしたギャルソンが俺を見る。
2日は日曜。客足が一番多い曜日なのだ。
怪訝なギャルソンの顏を俺は無視して、適当な日を告げると早々に部屋から追い出した。

閉まったドアに息をつき、振り返るとチビナスの満面の笑み。

「ジジイ、2日は絶対空けておけよなっ」

そう言い残して、チビナスは来た時と同じくバタバタと部屋から出ていった。

なんだ?
こんなことがそんなに嬉しいのか?
いつもはクソジジイだ何だ悪態ばっかつくくせに、わかンねェガキだな……。
まァ、別にいいんだが。



3月2日。
俺達がバラティエに帰ったのは夜も更けた頃。
はしゃぎすぎたか、疲れて眠っちまったチビナスをおぶってベッドに寝かせ、部屋を出たところでギャルソンと鉢合わせした。

「おかえりなさい。どうでした?」
「それがよくわかンねェんだよ…」
「は?」

「公園でクレープ食って、
 市場の奥の小洒落たエリアのウインドウ見て、
 おもちゃ屋入るから、模型でも欲しいのかと思ったら、
 てめェのサイフで小っちェえひよこのキーホルダー買って、
 ソイツを俺に『あげる』だとよ。」

コイツな、と懐のポケットから丸い身体につぶらな黒い目をしたたまご色のひよこを取り出して見せた。

「で、味はまあまあだが内装のご立派なレストラン
 ……チビナスがココがいいって言うからよ、で飯食って。
 そしたら何をトチ狂ったか『バーに行きたい』だと
 ……ガキの遊び場じゃねェってのに。しょうがねェから知り合いの店に顏出して。
 
 アイツ自分の欲しい物を見に行くとか言って、結局何も買わせねェで、
 一体、何がしたかったンだ?」

ここまで一気にしゃべって俺は、
ギャルソンがくすくすとさもおかしそうに笑っているのに気付いた。

「なんだ?」
「いえ…そういう事ですか。」
「あァ?」
「コック達に熱心に尋いてまわってたようですから」
「だから何をだ」

ギャルソンは苦笑しただけでそれには答えず、

「オーナーはプレゼントをちゃんと渡してますよ」

とだけ言い、その場を去っていった。

茫然とした俺だけが残った。


俺が?いつ?何を渡したって?


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チビナス、初めてのエスコートだったという話。

                                  end.
2003.03.02.HAPPY BIRTHDAY SANJI