3:00-4:00.am



 店主が自分のために何か作ってくれるのは本当に久しぶりだったので、青年は期待に満ちた目で、ボトルを選ぶ店主を追っていた。
「てめェは、ダークラムよりホワイトラムのが舌に合うみてェだな……」
 店主は独り言ともつかぬ呟きを漏らした。

 ダークラムが濃い琥珀色で味にも癖があるのに対し、ホワイトラムは無色透明である。なので、澄んだ青の『BLUE HAWAII(ブルー・ハワイ)』からチョコレート色の『PANAMA(パナマ)』、明るいオレンジ色の『LEMON HART&ORANGE(レモン・ハート&オレンジ)』……と、多種多様に姿を変えることができる。
 赤髪の男が飲んでいった『BETWEEN THE SHEETS(ビトウィーン・ザ・シーツ)』もホワイトラムがベースだ。

 店主は数本のボトルを手に取った。青年からは陰になってよく見えない。手早くシェークされてしまったので、結局それが何だったのかわからなかった。

「それ、何?」
 シェーカーをカウンターに乗せて、店主は言った。「当ててみな。」
「ホワイトラムだけじゃわかンねェよ。」口をとがらせる青年に、
「よく考えろ。さほど難しいモンじゃねェ。」
 あくまでも店主の答えはそっけない。
「いいか、使ったボトルは3本。ホワイトラムは1/2、あと二つは同量で1/4づつだ。」
「ちょっと待て!…………えっと」
「まだヒントがいるか?」
「言うなッ!!……………っあ!『ANDALUSIA(アンダルシア)』か?」
「違う。あれはラムが1/4。」
「『DAIQUIRI(ダイキリ)』?」
「近いと言やァ近い、が、違う。アレならボトルは二本だ。」
「じゃァ………」
「キリがねェ、不味くなる。あと一つだ。それで当ててみろ。」
「うっ………………。」いざ、そう言われてしまうと、言葉に詰まる。

“店主が自分のためにつくる”のだとしたら何だろう?
 自分によく似合うと言われた青色のカクテルだろうか?
 それとも、幼いころにアルコールをほとんど抜いて作ってくれた、甘いカクテルだろうか?
 漠然と教わったカクテルを思い出すうちに……………………

 ひとつの名前が浮かんだ。

 その表情に気付いたのか、店主が言った。
「いいから。今思ったヤツでいい。言ってみろ。」

 レシピは当たっている、と思う。
 問題はその名前。
“最後のカクテル”という意味を持っていた。
「これ以上のものはない。最高のカクテルだ」と自信に溢れた作者のネーミング。
 あなたにとっての最後で最高になれたら、どれだけいいだろう?
 震えそうな口唇で、青年は祈るようにその名を言った。

「………………『XYZ(エックス・ワイ・ジー)』?」
 店主は無言で、カクテルグラスにそれを注ぐ。

 満たされてゆく淡い白に、青年の顔がほころんだ。